第80章

田中辰哉は物音に気づくと、勢いよく扉を開けた。そこにいたのは大島莉理。床に散らばった陶器の欠片を、慌てた手つきで拾い集めている。欠片は鋭く、見ているだけで田中辰哉の眉間がひくりと跳ねた。

田中辰哉はそっと彼女を引き起こす。

「あとで使用人に片づけさせる」

大島莉理は乾いた返事だけを落とした。指先にはスープが少し付いている。田中辰哉はポケットからハンカチを取り出し、指を丁寧に拭ってやりながら、張りつめた表情を一瞥した。

「フェイリン・バーには行ったことないって言ってなかったか」

大島莉理の頭が高速で回る。咳払いを一つして、平然を装った。

「岩崎さんに行けって言われたのは本当。でも家...

ログインして続きを読む